「って、あれ?」


「なんですかぃ」


「あーなんだ・・沖田くんって」


「へい」





「左、なの?」











憧     憬
















偶然であった道端で、偶然の流れで何故か、喧嘩したいと言われた。
瞬時、気配が変わったことには気付いてたけど、それでも俺は変わらないまま、呑気な顔してたんだけど。
真顔で、言われた。




「俺、一度旦那と本気で喧嘩したいと思ってたんでさぁ」




左腰に備えられたもの。
スラリ、と抜かれた魂は、右手から左手へと渡った。
あれ?と思ったから、声にした。
だって、今まで何度か、ほんと数回だけど見たことがある。
右手に構えられた、刀。
なのに、わざわざ左手に持ち替えてってどーいうこと?という声が、一言で口からついてでた。
本気で、って言った。
気配だって違う。
先刻までのものとは打って変わっての、殺気を顕わにしたものだ。
今まで何度か、ほんと数回だけだけど剣を構えたときとは明らかに異なる、気配。
ってことは、と思ったからそれも口にした。





「左、なの?」




言葉に、ふと口の端だけがあがる。
構えられた剣先は、ビュという音と共に地に落ちた。



「まぁ、そーいうことでさぁ」


「左利き?」


「そうなるんですかね」


「でも、いつもは右だよね?」


「ああ、あれは手加減でさぁ」


「あんな真剣の場で手加減してんの、きみは?」


「だって、力の加減がわからないんで。左だと」


「わかんないってな」


「前に、土方さんに言われて。ああ、って思った」









真選組、旗揚げの直前。
言い渡されたのは、隊の編成。
お前は一番隊。隊長だといわれ、はぁ?と思った。
トップは近藤さん。その下を土方さん。其れは納得出来る。
これが組織図だと言われて、広げられた紙には先頭に近藤さん、その次に土方さん。
山南さんの名前が連なって、そのあと。
問題はそのあと、だった。
一番隊から十番隊まで。
ずらりと並んだ名の先頭に、俺の名。
だって、俺。
最年少で、頭も悪いし。
人なんか仕切れるはずもない。
我侭だって言いたい放題で、確かに近藤さんのものではあるけど。
「マジでか?」
「おお」
「つか、俺ですぜ?」
「ああ」
「俺なんぞに隊のひとつを任せる気なんですかぃ」
「一番隊の隊長は、一番強い奴と決めてた。だから、お前だ」
「ま、俺は強いですけど」
「お前の強いは、ある意味危うい。これから俺たちが成すことは、テロリストの捕獲が中心だ」
「んなこと」
わかってますぜ、と言おうとする前に土方さんが広げた紙を放り置いて、立ち上がり、来いと顎で呼ぶ。
面倒臭ぇと文句を言いながらも連れて行かれたのは、道場で。
壁に掛かった竹刀が放り投げられた。
其れを左手に受け取る。
「なんですかぃ、一本やるんですか?」
「そうだ。掛かってこい」
「じゃ、遠慮なく」





数分も経たないうちに土方さんが転がった。 してやったり、と得意げな顔で倒れた人を覗き込む、と困ったもんだ、と言う。
「何が?」
「今のお前の剣じゃ、皆殺しになっちまうって言ってんだよ」
「だってそーいうことになるんでしょ?」
「違うといっただろ。捕獲が前提だ。全部を全部、亡き者には出来ねぇんだよ」
「はぁ」
「相変わらず、力の加減を知らねぇんだな、お前は」
「加減なんぞ必要ねぇだろぃ」
「有る、と言ってる。だからな、総悟」 「へい」 「ちょい、右手でやってみろ」 「右?」
「一応、両方使えるんだろ?」
「はぁ」
渋々、握りなおし。構える。打ち込んで来い、というから容赦なく行く。
さっきは簡単に出来たことが今度は出来ない。当たり前だ。利き手じゃない。力が半減されているように思える。
竹刀がかち合う音だけが、響く。
ニヤ、と土方さんが笑うから調子こくんじゃねぇと突きの構えをとったところで、ストップと掌を掲げられた。
「お前、これからは右手でやれ」
「右手だぁ?」
「そうだ。右のが丁度いい。だから、これからは右で剣を振るえ」
「えー」
「但し、雑魚相手の時だ。マジで強ぇとお前が感じたやつには、容赦なく左で振るえ」
「んなこと言われても」
「わかるだろ、強い奴とそうじゃないやつくらい」
「欲求不満になっちまう」
「俺が晴らしてやるから我慢しろや」










「へぇ、土方がそんなこと言ったんだ」


「だから旦那とは左でってことでさぁ」


「とは言ってもね、俺にはその気はねぇからなー」


「つれねぇお人でさぁ。俺、結構マジなのに」


残念と、抜いたものを鞘に押し込め、両手を頭の後ろに廻して口を尖らす。
ほんとに子供だ。そんなにも子供なのに、人斬る少年。
つか、あれはまだ本気じゃなかったってことなのね、末恐ろしい。





「今度、機会があったら宜しく頼みまさぁ」




じゃ、と手をあげて駆け出す。 行く先には見慣れた、煙草野郎。




「んな機会がないことを願ってるよ」




確かに、本気のキミとだったら面白いと思うけど。











2006.07.19 UP [a moonless night / 森田 りい]


■ 総悟左利き萌え同盟 作品 ■
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